2022/11/21 11:15
経営
ケイパビリティとは【経営戦略/組織能力】
少子高齢化にともなう労働人口の減少や、テクノロジーの発展、ダイバーシティ推進に向けた社会意識の高まりなど、企業を取り巻くビジネス環境はめまぐるしく変化しています。
市場環境の変化に対応し、競争優位性を保つためには、従来の競争戦略では不十分です。
自社の事業プロセスの「ケイパビリティ」に着目し、組織能力を高めていく必要があります。
この記事では、ケイパビリティやコアコンピタンスの意味、ケイパビリティを活かす経営戦略について解説します。
ケイパビリティとは明確な優位性がある「組織能力」
ケイパビリティとは、英語の「能力、素質(capability)」がもとになった言葉で、企業組織が持つ強みやアピールポイントを意味します。
とくに市場の競合相手に対し、明確な優位性がある「組織能力」をケイパビリティと呼びます。
ケイパビリティの具体例として、たとえば次のようなものが挙げられます。
- 物流プロセスの全体最適化を行い、ロジスティクスを実現する
- フランチャイズとの結びつきを強化し、自社の販売力を高める
- 作業員の意識変革を促し、自社工場の生産効率を高める
組織能力が磨き上げられているほど、ケイパビリティとしての価値が上がり、他者への競争優位性が高まります。
過酷な価格競争や相次ぐ技術革新など、市場環境の変化がスピードアップするなかで、従来の競争戦略だけでは生き残れません。
企業のケイパビリティに注目し、組織能力を高める事業戦略が必要です。
ケイパビリティと従来の競争戦略の違い
従来の競争戦略では、市場におけるポジショニングを重視していました。
しかしケイパビリティでは、儲かる市場ではなく、自社の強みや得意分野を持ち、それを高める戦略が大切だと考えます。
経営戦略におけるポジショニング・アプローチでは、マイケル・ポーターの「ファイブ・フォース・モデル」が知られています。
ポジショニング・アプローチとは、競争が激しくない市場を選んで競争優位を確立する、という考え方です。
ポジショニング・アプローチは、外的側面へ作用しますが、
ケイパビリティでは、企業風土や人材、組織体制といった企業の内的側面に注目し、組織力の向上を目指す戦略になります。
ケイパビリティとコアコンピタンスとの違い
ケイパビリティとよく似た文脈で使われるのが、「コアコンピタンス(Core competence)」という言葉です。
どちらも企業の強みや競争優位性を意味する言葉ですが、ケイパビリティは企業の事業プロセスを表す言葉であるのに対し、コアコンピタンスは企業の技術上の強みについての言葉です。
オートバイの販売事業を例に挙げてみます。ディーラー管理を見直し、オートバイの販売網を強化するのはケイパビリティです。
一方、他者にはないエンジン技術を持っていることは、コアコンピタンスに当たります。
ケイパビリティは組織として発揮する「組織力」、コアコンピタンスは自社の核となる「技術力」だと覚えましょう。
自社の強みを活かし、ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーの実践を
自社のケイパビリティを高め、競争戦略に活かすことをケイパビリティ・ベースド・ストラテジーといいます。
ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーは、次の4つの原則で成り立っています。
- 自社の経営戦略において、製品や市場よりも、事業プロセスを洗練させることを重視する
- 自社の主要な事業プロセスを洗練させ、他社に真似できないレベルに磨き上げることで、強豪への競争優位性を発揮する
- 事業プロセスを洗練させるため、自社のインフラに戦略的な投資を行う
- バリューチェーン全体を見直す必要があるため、ケイパビリティ戦略にあたっては会社の経営層が中心となり、全社横断的な体制づくりが必要となる
他者の製品やサービスは簡単に模倣できますが、時間をかけて磨き上げられた事業プロセスやオペレーションは簡単に真似できません。
ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーを実現すれば、強力な競争優位性を獲得できます。
ケイパビリティを創出する3つの方法
それでは、どうやって自社のケイパビリティを創出できるのでしょうか。
ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーを実践する3つの方法を紹介します。
1. バリューチェーン全体の見直しを
まずは自社のバリューチェーンを見直し、他社への競争優位性を発揮できそうな事業プロセスを洗い出しましょう。
ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーの原則に従い、なるべく自社の主要な事業プロセスを選ぶ必要があります。
研究開発、生産工程、マーケティング、マーチャンダイジング、物流など、自社の事業プロセス全体を振り返り、他者と差別化できそうなものを選びましょう。
2. 自社の強み・得意分野を活かす
自社のケイパビリティを高めるには、ただ事業プロセスを改善するだけではなく、「模倣可能性(imitability)」に着目する必要があります。
競合他社によって容易に模倣できるようであれば、市場において競争優位性を発揮できません。
他者に模倣できないオペレーションを実現するには、自社の得意分野を活かす必要があります。
自社の内部環境を分析しても強みが見つからない場合は、市場や競合他社といった外部環境を分析することも大切です。
市場においてどのようなニーズが誕生しているか、競合他社に対し自社はどのような役割を持てるかを分析することで、自ずとこれから伸ばすべき事業プロセスが見えてきます。
3.人材育成を強化する
人材育成を強化することも、ケイパビリティを高めるために大切です。
従業員の能力や可能性を高めるためにも、利益活動に直接つながる内容だけではなく、幅広い知識を得るための学習を取り入れるのも効果的です。
従業員の視野を広げておくことで、 新しい発想での商品・サービス開発や、マーケティング活動にも役立ち、組織力向上も目指せます。
ケイパビリティの活用事例
ケイパビリティの活用事例として、2社ご紹介します。
フリトレー
アメリカ最大の菓子メーカー、フリトレーでは、自社製品を販売する小売店舗への独自の流通方法の構築が競争優位になると考え、
自社でトラックに投資し、製品を直接店舗に配送するシステムを構築しました。(ダイレクト・ストアデリバリー・ケイパビリティ)
最大のメリットは、小売り店舗内の自社の販売スペースの売れ行きを、自らの目で確認できることで、消費者の好みや需要の変化をダイレクトに察知し、
その変化にほぼ1日おきに対応できるようになったことです。
配送ルートやトラックのネットワークなど、高度なテクノロジーをベースとしたプロセスの構築、トラックドライバーの教育ができているからこそ成功した事例です。
アップル
アメリカのアップル社は、主力製品を販売する際、コストや時間をかけてでも、あえて直営店を各地に展開する戦略を選びました。
販売プロセスを自社が管理することで、アップル特有の「革新的な機能」をお客様にお伝えすることが出来る、という強みを生み出すことに成功しました。
また、自社にリソースを抱えると、ダイナミック・ケイパビリティ戦略の要領で変化に応じた資源の再配分や再構築も比較的実施しやすくなりました。
環境変化に適応する「ダイナミック・ケイパビリティ」とは
ケイパビリティの中でも最近注目を集めているのが「ダイナミック・ケイパビリティ」です。
ダイナミック・ケイパビリティは「企業変革力」を意味し、ビジネスにおける環境が激しく変化する中で、企業が競争力を維持するための方法論として提唱されました。
2015年に発表された慶應義塾大学の菊澤研宗教授の論文によれば、ダイナミック・ケイパビリティは次の3つの要素に分かれるとされています。
1 センシング(感知) 環境変化に伴う脅威を感じ取る能力
2 サイジング(捕捉) 環境変化を機会と捉え、既存の資源・業務・知識を応用して再利用する能力
3 トランスフォーミング(変革) 新しい競争優位を確立するために、組織内外の既存の資源や組織を体系的に再編成し、変革する能力
従来のケイパビリティを伸ばしつつ、ダイナミック・ケイパビリティも向上させていく姿勢が重要になっていきます。
ケイパビリティは自社の強みを活かす競争戦略
新しい製品やサービスと違って、磨き上げたオペレーションは容易に模倣できません。
自社の事業プロセスの強みを活かすケイパビリティ・ベースド・ストラテジーによって、市場における競争優位性を確保しましょう。
自社のバリューチェーンを見直し、他社に模倣できない得意分野を見つける必要があります。
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